01 9月, 2015

建築家からの意見:新国立競技場について(8/29更新)

新国立競技場について建築家からの意見が届いています。新しい投稿は随時更新していきます。
(8/29 ザハ・ハディドからの意見をupしました)
(8/24 横河健さんからの意見をupしました)
(8/6 松島潤平さんからの意見をupしました)
(8/5 槇グループからの意見をupしました)
(8/3 佐藤宏尚さんの意見を更新しました)


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ザハ・ハディド

なぜリスクを冒すのか?
Why take the risk?
デザインの権限を施工者に与えてしまうと、価格と工期以外の本質的な価値や品質がわからなくなってしまいます。新整備計画の、たった5ヶ月間の作業ではじき出された価格を信頼することはできません。新しいデザインではっきりしとした価格がわかるまでにはもっと時間がかかるでしょう。
しかしその時ではすでに遅いのです。このやり方では、日本の国民は支払う価格に対してより少ない見返りしか得ることができないでしょう。
それなのになぜリスクを冒すのでしょうか?既に高い品質のデザインは存在し、新しい予算に合せて変えることができるのに。こんなに見通しが不確かな中、新整備計画はなぜ全てにおいてリスクを冒そうとするのでしょうか?
Giving the design responsibility to the contractors means there is no real definition of value or quality except for a price and time schedule. A new concept design submitted with a price cannot be trusted after 5 months of design work. It takes much more time to determine a new design with complete price certainty and by the time that certainty is achieved, it will be too late.The Japanese public will get less for their money with this approach.
So why take the risk? There is a design which will achieve quality and it can be changed to meet a new budget. Why risk everything when the outcomes are so uncertain?


根本的問題
新整備計画を進めて施工業者を募った場合も、昨年このプロジェクトを獲得する為に争った、同じ数の限られた日本の施工業者しか応札しないでしょう。
たとえ入札が国際的な施工業者に開かれた形になっても、結局日本の大手ゼネコン5社のうちの一社が勝ち取ることになるでしょう。
私たちが知る限りにおいて、日本には今回必要なスタジアムの施工経験があり、この大プロジェクトを引き受けることができるゼネコンは5社しかありません。この5社のうち2社は、既にプロジェクトに参加し、2520億円の工事価格をつけた施工業者です。
つまり限られた競争しかないという、この根本的な問題こそが取り組むべき課題なのです。新整備計画は既存のデザインを元にし、プロジェクトの工期とコストを収めるためのオプションを検討に加え、より競争的な入札方法を作ることに集中するべきだと私たちは考えます。
これによって、今までのデザインを無駄にすることは無く、価格に見合わない建物が出来てしまうというリスクを避けることができるでしょう。

「既存のデザインを元にし、プロジェクトの工期とコストを収めるためのオプションを検討に加え、より競争的な入札方法を作ることに集中する」

スケジュールの比較
私たちは既に2年間にわたり新国立競技場のデザインを続けてきており、今年の後半には着工の準備ができていました。競技場は2019年のラグビーワールドカップまでに完成し、2020年の東京オリンピック前のテストイベントにも間に合う予定でした。
白紙撤回の目的が2520億円より安い価格を得る為だけだとすれば、一からデザインをやり直す事は不必要なリスクを招くだけであり、政府は撤回を再検討する価値があると考えます。私達はデザインの積み重ねを失うこと無く、施工者の間に競争力を生み出すことが問題解決への解答であると確信しています。
敷地はとても複雑であり、基本的な要求である座席数や付随施設などはそのままであれば、今のデザインの大部分は変わらず利用できます。
新整備計画は工事費を下げる為に行われるべきで、今まで培われたデザインを無駄にするべきではありません。新整備計画はデザインに費やす時間がとても短く、デザインと価格が確定する頃には既に手遅れになります。代わりに、現在のデザインを今から修正することでより確かな工事費を得る事が出きます。

デザインの利点;公園の延長としてのスカイブリッジ
サドル型のスタンド形状によって、付属するユニークなデザインの公共空間が誕生しました-スカイブリッジです。スカイブリッジはスタジアムの機能として不可欠なものではありませんが、スカイブリッジは毎日開放され、イベントが無い日もアクセスすることができます。これはスタジアムが都市のファブリックの一部として日々利用され、外苑の持つ遊歩道文化とスタジアムを繋ぐことを目的にしました。

デザインの利点; アーチと工期
これは地盤の上に置かれたアーチで、視線が遮られない無柱空間を確保することができます。アーチは地盤の上にあるので、座席スタンドと並行して工事をすることができます。屋根がスタンドから支えられ、その順序でしか施工ができない案に比べて約3か月工期を短縮する効果があると確信しています。
竣工日に対してとても有効で、コストを抑える効果もあると考えます。この利点の検討は、先の技術協力者業務で実現することができませんでしたが、新しい整備計画の入札では再検討することが可能です。

キールアーチの効率とコストは、東京と似たような地震地域で同様のスパンを持つ他のスタジアムの屋根を支える鉄骨の重量を比較することによって可能です。私たちはこのような検討を経て、キールアーチは効率が高く、コスト効果などの他の利点もある解決方法だと結論づけました。

2520億円という価格の説明
新しいスタジアムの予算を決める前に、まず施工者が提出した現在の価格をよく理解することが必要です。これは今まで説明してきたデザインを含んだ価格では無く、多くの要素が取り去られた後の価格です。
2520億円に開閉式屋根や可動式の座席は含まれず、コンコースも部分的な覆いがついているだけです。つまり、既に固定8万席の陸上スタジアムの市場価格になっているのです。スカイブリッジは贅沢かもしれませんが、2520億円が現在の東京でベーシックな8万席のスタジアムをこの敷地に作る時の価格と考えてよいでしょう。

新整備計画は、オリンピックのように動かすことができない期日と、限られた競争しかないマーケットが、増加した価格の原因であったことは明らかです。市場で価格を決めるのは、材料と労働力の需要なのです。
このような状況下において、デザインは価格を決める決定的要因にはなりません。逆にデザインこそが、このマーケットの状況で価値を生み出す唯一のものであるとも言えます。契約の中でデザインに対して時間やコストほどの制限がなくなった場合、投資した価値を取り戻すことがとても困難になるでしょう。
現在のデザインはデザインの基本的な方針は変えること無く、より低い予算に合せて再デザインすることが可能です。これによって、日本の国民は現在のマーケットに見合った価値の建物を得ることができ、また長期的には投資した価値を取り戻すことが出来るでしょう。

更なるコスト削減は座席空調やスカイブリッジの中止をすることによって可能でしょう。しかしスタジアムのデザインはコンパクトで効率的です。これ以上は収容座席数を大幅に変更するとか、さらに競争力の高い入札方式を導入するなどを行わない限り改善することはできないと思います。
Bowl cooling (座席空調の中止)
Skybridge (スカイブリッジの中止)
Excavation (掘削量削減)
Facade Omission (ファサードの削除)
SW Deck Omission (南西デッキ削除)
Acoustic performance (音響性能の軽減)
Lower Spec Material (素材の見直し)
Lower Spec Cladding (外装の見直し)
Lower Spec Interior(内装の見直し)


ロンドンから学ぶこと
東京は2012年のロンドンオリンピックから学ぶべきです。ロンドンのスタジアムは設計施工一括方式(Design & Build)でした。東京の2520億円に対応する日本円換算では2180億円でした。
ロンドンのスタジアムを良い買い物だったという人は誰も居ません。デザインはとてもベーシックで、当初の考え方はずっと妥協を余儀なくされてきました。
2012年に8万席を持つ陸上スタジアムとして建設されました。上部の5万5千席はオリンピック後に取り除かれる予定だったため、必要な施設はすべて地上に置かれ、(上部の)座席から長い距離を歩くことを余儀なくされました。この時点までで1380億円かかっています。
オリンピック終了後、より持続可能なスタジアムとするため、可動式座席が導入され、屋根を延長する為にすべての鉄骨を再溶接し直す必要があり、この作業に700億円かかり、トータルでは2180億円かかっています。
当初陸上競技専用に設計され後にフットボール(サッカー)に転用されたため、妥協の結果のスタジアムです。フットボールのモードでは本来の多目的スタジアムが持つ臨場感を醸し出すことは無く、上段のスタンドから各施設までの長い歩行距離は、上段のスタンドのチケットを売ることを難しくしています。
東京はこれらの間違えを繰り返さないようにすべきであり、効率が高くて変化に対応し、長期的に持続可能で投資価値の高い現在のデザインを用いるべきです。


知識の蓄積を活用する
政府がより良い価格をえるために新しいプロセスを進めたいのは理解できます。しかし、デザインに不必要なリスクを冒す必要は無く、現在のデザインを維持した方が納税者のお金を有効に使うことになります。
過去2年にわたって考え抜かれて開発されたデザインはユニークなだけでは無く、東京のこの特別な場所に置いてコンパクトで効率的なデザインです。
現在のデザインは我々が他のオリンピックスタジアムで経験してきたことを全て内包しています。この知識と経験は活用することで、日本は初めて国立競技場と呼ぶにふさわしいスタジアムを得ることができるでしょう。


※上記は91ページに及ぶ資料の要約です。全文はこちらからダウンロードできます。


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横河健

新・国立競技場の計画見直しは結構なことだが、異常に膨れ上がった工事費の削減程度でお茶を濁すとしたら問題である。

検討するであろう問題のいくつかを整理しておきたい・・・

1) 国際コンペで決定したデザイン案の変更

まずこの国際コンペと云われているものは、コンペではなく単なるアイディアコンクールというもの。つUIA・国産建築家連合で規定されている国際設計コンペの規約に則っていないもの(審査員の半数以上が建築家である必要を満たしていない) しかも、このコンクールに審査員として呼ばれていたノーマン・フォスターとリチャード・ロジャースの二人のイギリスの建築家は審査会に来なかった。
つまりこの茶番的に選ばれた案は、東京にオリンピックを招致したいがための花火をあげたかっただけのこと。

2) 国際協約だからアイディアは残して欲しい・・・とする安藤氏の意見もオリンピック招致のための最後のプレゼンテーション(有名なオ・モ・テ・ナ・シ)のときに安倍首相が大見得を切っただけのこと。つまり、二段目の花火をあ げたと云うだけで国際協約でも何でもない・・・どの国でも招致が決定したあと、実務的フィジビリティースタディーが行われ、異常なことがあれば修正もしく は案が破棄されることもある。さらに建設地域の市民の反対があれば、これも案が破棄されることは国際コンペでもよくあること。

3) オリンピックもしくはラグビーW杯に間に合わないのではないか?

オリンピック・陸上及び他のスポーツのため、過去のどの国に作られた競技場建設程度の規模であれば確実に間に合う。但し国際コンペをやり直す時間はないか もしれないので、ザハに次ぐ2等案を選ぶのも手であろうし、良く出来ていて国民の信頼も厚かった旧国立の規模を拡大する設計修正案と云う手もある。いずれにして訳の分からないイベント(ロックコンサートなど)のために膨れ上がったプログラムは工期の危険度を増やすことのみならず、オリンピック以降の 運営維持するための困難さを増やすだけである。さらに蛇足ではあるが、ラグビーのW杯のための約束などはIOCとの関係、また国民の理解からは遠く、独り 個人の政治家の思いだけのこと。今回の国立競技場建設とは関係がない。(一部、政治家+官僚の
隠された約束事があったかもしれないが、国民の総意と関係がない)森山氏と大野秀敏氏が首相官邸に呼ばれていると聞く。いずれにしても通常の(過去5カ国のオリンビックスタジアムの工事費は多くて500億)工事費で再考すべきであり、2,520億という異常さの根源を明らかにしなければならない。その原因を取り除き、勇気を持って新な設計に取りかかるべきである。

4) そもそものザハの案が選ばれた国際コンクールは、東京の明治神宮・外苑という近代都市計画上のランドスケープデザインが見事に構築された、我が国において は希有な場所である、このことを無視するようにコンクール直前にいままで神宮の環境を維持させて来た法律(20Mの高さ制限など)を破棄し、突然70Mを 超える案を許容出来るようにしたように、国民に知らされていない異常な画策のもとに行われたコンクールである。すなわちこのような不道徳なコンクール計画 に加担した(この規約を事前に承認した)安藤忠雄さんの責任は重い。これが招致のための花火をあげるイベントごとでした・・・・とするならまだ国民の理解が得られたかもしれないが、このままのザハ案を維持しなければ国際協約に違反する・・・・などという詭弁は許されるものではない。
この神宮の杜の自然を残し、近代都市のランドスケープを維持するための今回の計画案見直し、つまりザハ案破棄を安倍首相並びに有識者会議の面々、官僚の 方々は勇気を持って決断してもらいたいと思う。さらに、舛添東京都知事を黙らせた自民党の面々もここに来て、見直しの機運を持って来たと聞いている。もし 自民党がこの見直しを断行するなら今後の政策の賛同も得られるかもしれない。


私はこの機会が私たちの愛する国にとって、ようやく真っ当な、国際的に普通の民主主義国家として成立? と思っている。


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松島潤平

 ザハの設計案は、要求のむちゃくちゃな過大さと、外苑まわりの様々な人や物の流れを一つの強い形にまとめて練り上げた、エゴイズムから最も遠い位置にあるコンテクスチュアリズムの産物。奇抜だったのは彼女のセンスではなく、様々な歴史がパッチワークされた外苑という敷地と、オリンピックに際して好き勝手に蠢く人々の魑魅魍魎的立ち振る舞いだったというわけです。

デザインとは、「ある機能を満たしたものに対して加算的に加えられる装飾だ」「余計なコストとして上乗せされるものだ」と勘違いしている人があまりにも多いように見受けられますが、与えられた条件のなかでバッティングする要求・機能を止揚しながら一つの魅力的な形態へとまとめあげていく行為こそがデザインです。デザインと機能は、決してそんなに簡単に分離できるような関係にはなりません。ザハ案もしっかり読み込めば、当然、いや驚くほどに、そうしてできている。だからこそ、デザインされたものというのは、要求そのものの持っている構造的問題を映す鏡でもあります。ザハ案は、今回の要求自体が極めて未整理かつ過大であるという根本的な問題を、主催者側の喉元に突き返しているわけです。

設計案ではなく、主催者側の用意した与条件・プログラムこそがデザインレスだった。ザハは、そのデザインレスでカオチックな状況そのものをデザインした。そのことが改めて広く認知されること、そしてデザインという言葉・概念が貶められることなく、極めて知的な行為だと広く知らしめられるきっかけとなることを願っています。


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槇文彦(代表)、大野秀敏、中村勉、元倉真琴、山本圭介、古市徹雄

(※編集注:7月30日に槇グループより発表されたリリース全文をお送りいただきました)

 一昨年来われわれが問題点を指摘してきた新国立競技場計画が、このたび見直しとなり白紙撤回されたことを心から歓迎したいと思います。

しかしながら、設計から施工に掛けられる時間は迫っており、それゆえに選択肢は狭められているだけでなく、短時間のうちに重要な決定を下さなければなりません。
見直し作業が、最善の結果を得て、国民と東京都民の皆がオリンピックの開催を心から祝福して迎えられるためにも、 これまで前案の廃案を主張して来たわれわれの立場から、今後の見直しにあたって、考慮されるべきことをここに示す次第です。

 1. 施設規模について

廃案となった前案は約8万人の収容力をもつ計画であった。再検討では、オリンピック時の収容人数は最大約8万人としても、会期後は、旧国立競技場並みの5~6万人に縮小するべきである。この主張は、1)安全性、2)集客力、3)景観等、4)維持管理費、5)首都圏諸都市の機能分担の5つの観点からなされている。

1)安全性の観点
観客の安全のためには、災害時や緊急時に(例えば爆弾を仕掛けたという通報が入った場面を想像して頂きたい)、全観覧者を迅速に施設の周辺空地に避難誘導することが求められる。神宮の敷地は狭いので 建物が大きくなると、それだけ空地が狭くなる。

2)集客力の観点
誇大な観客席を設けても、それを満席にできないスポーツ種目にとっては、盛り上がりに欠け、使い勝手が悪い。日本のスポーツ観戦市場に見合った規模にすべきである。例えば、ドイツやイギリスの様にサッカーで常時8万人集められるチームは日本にはない。

3)景観等の観点
東京都心にとって、皇居から代々木公園にかけて連続する緑地は、景観的にも、生態的にも、防災的にも貴重で重要な存在であり、これ以上の毀損は避けるべきである。 当地では、風致地区の高さ規制の緩和を行っているが、新案作成においては、この緩和に関わらず、風致地区の主旨を理解して出来る限り低い建物とすることが望まれる。また、極力建築面積を減少させることも新しいプログラムの目標とすべきである。

4)維持管理費の観点
過大な観客席はオリンピック後には適正な規模に合わせて縮小すべきである。また、東京オリンピックの会期が真夏であることから客席に冷房設備が不可欠であるが、これも過大な観客席とともに会期後は撤去すべきである。なぜなら、一般的に言って、建物は使っても使わなくても機能を維持するためには修善・更新が必要であり、オフィスビルであれば50年で建設費用と同程度の費用がかかることを念頭に置くべきである。

5)首都圏諸都市の機能分担の観点
横浜、調布、大宮には既に大規模な運動競技場が整備されている。オリンピック後には、首都圏域の均衡ある発展のためにも、新国立競技場もふくめて、それぞれに適切な役割分担を図って活用すべきである。全ての「聖地」を千駄ヶ谷に一極集中すべきではない。

2. 新国立の中心的な機能

世界のスポーツ施設の潮流は、兼用(複合)施設ではなく、種目別専用施設を指向している。兼用(複合)施設は機能性において専用施設に劣るからである。 国際的な陸上競技開催を主目的とするのであれば補助トラックの確保を一体的に計画すべきであり、国際的な球技大会の開催を主体とするのであれば天然芝の育成を最優先として日照と通風を確保し、同時にピッチと観客席の接近性が必須である。どの競技を中心にすべきかを早急に決めなければならない。音楽興行場としての利用は、あくまでも運動施設の空きを埋める範囲での活用策として位置づけるべきであり、芝生の育成の妨げとなり工事費用と維持費用を増やすだけの可動屋根の設置などは控えるべきである。

3. 適切な工費と国民負担

過去の各都市の主会場の建設費からすれば、当初の建設整備予算である1300億円でも十分過ぎ、これを超える理由はどこにもない。
施設の維持管理費用を考えるときには、運営収支だけではなく修善費用まで含めた全支出に対して、公共施設として適切な収入を得る収支計画を立案するべきである。 初期投資や修善費用を考慮しない収支計画は真の収支計画からはほど遠く、国民負担を増す原因となる。

4. 適切なプロジェクト遂行

建物の設計と建設を効率的に進め、オリンピック後にも印象深い建物として国民に記憶されるような建築を実現するためには、上記に記したような建物の主要目的や要求水準を設計発注時までに確定し、政府案として承認、公表しなければならない。また、設計者施工者の選定においては、過程と結果の透明性確保が重要なことは言うまでもない。


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【相坂研介】

僕は2012年7月(コンペ開催当時)、国立競技場のコンペ要項が出たときから、「おかしい」と言ってきました。https://goo.gl/2G76j1

以前よりそれをまとめてましたので、改めての意見としてお送りいたします。

■コンペのあり方に関して

①デザインコンペなら高い受賞歴など不要。
(現に高名な受賞者3案とも全て予算超過。) (どうせ実務は組織事務所が下支え予定だった) (ので極論すれば小学生の夢の絵でも良かった)

②要綱に規模・環境・景観の条項明記は必須。
(国際コンペなら主催者側から事前周知すべき) (槇さんは要綱発表時に批判していただきたかった。後続の各団体などガヤ芸人。川上に参入せねば)

③審査委員会および実行委員会の権限の明示。
(設計見積と施工見積の比較査定、裁量権など)

■コスト縮減とこれからに関して
④過剰な発注者の要求条件削減が最重要。
(固定席は8→5万。デパート級の付帯施設、3階分のvip席、座席モニター設備等カット) (音楽用途=遮音対策=競技部屋根を諦め、純粋な運動用途に絞った収支計画に転換)

⑤敷地選定の見直し(晴海か新木場等湾岸へ)
(招致は済んだし海風対策次第で可能では?) (割高な都心での運搬、仮設、近隣費カット) (景観論争も騒音対策も減り、屋根も不要に)

⑥施工者とは決して随意契約しないこと
(2520億は施工者の言い値。頼まれた側は強気) (「デザインビルド=設計施工」なんて絶対NG) (設計施工ではつまらない箱物に金が消えるだけ)

以上、④発注者⑤敷地⑥施工者が高額の原因。

生贄にされた建築家やデザインの非はほぼ0。
「奇抜なデザインがコストアップの原因」と、知らないのに声や力は大きい政治家側の言訳を市民は今も今後も決して真に受けてはダメだし、僕ら建築家も今こそ黙っていてはいけない。

■私見 まとめ
①デカくて高くてヤバいこと分かったんだから、敷地を変えるなら変えるべきだが、変えないまでも、「施主が発注内容見直し→設計はザハと現行設計者JVで縮小案作成 → 複数施工者に競争見積→きちんと査定」で決まり。
②本気でコンペやり直すのであれば、発注者が今度こそ条件と要項練り直し、2020年は諦めること。(そのときは僕も"デザイン案"出します。)


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【三浦 慎】



ザハ氏も白紙決定になるまでは、自分の意見を公には言えなかったはずである。
内部に於けるやりとりがどのように有ったのかはわからないが、契約のもと発注者が信じてくれるのであれば、第三者へ対しては自分たちの設計の良い部分を発信していくのが設計者の仕事でもある。
ザハ氏ほどの設計者にとって、巨大なアーチのみが自信の設計の魅力であるはずはなく、発注者側がきちんと優先順位をつけることができれば、より魅力在る造形をより安価に創ることが出来ると考える。また、コンペ後の設計変更において、都市との関わり方は切られており、アーチの断面形状も変わっている。それらの設計変更において、本来の造形の魅力が失われたことを、ザハ氏本人が一番理解していたはずである。しかし、その時点での発注者側の意見にきちんと従ったものと想像する。
そもそもの日本の人件費の高さは世界的にみても大変に高い。その上に、震災後の施工費の高騰、円安による材料原価の高騰は、現在自分の仕事でも40%程度の数字で跳ね返ってきてる。また今回しっかりした競争入札が行われたとは考えられない。国際コンペ自体がその犠牲になってしまった。一度日本の建築コストが世界的に見てどれだけ非常識になっているのか、北京オリンピックの”鳥の巣”を、日本で見積りをしてみたら良いと思う。
オリンピックという国際文化イベントに対し、コンペは、非常に高い参加条件の下に行われており、世界を代表する設計者の方々が参加された。また現在までザハ事務所に瑕疵はない。諸条件を改訂して、再度ザハ事務所へ発注し、その中でしっかり自由に設計してもらうべきだと思う。


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東京オリンピックを機に、公共、民間を問わずコスト・工期についてのコミット メントを早い段階で確定できる設計施工一括発注方式の採用が活性化しています。
そのような中、今回建築家がデザイン方針を定め、超大手の設計事務所が集まり 設計を行い、その結果このような迷走状態になったことを憂慮します。
これを機に、デザインビルド方式の流れがさらに加速してしまうと思われます。
これから改める新国立競技場の計画は、スピードや施工者の技術協力が不可欠な のでデザインビルド方式は有効かもしれません。
しかし同時に透明性や公平性の確保が難しくなることが、新たな問題に繋がり、 結果工期やコストに影響する可能性を、現在の状況から考えれば危惧します。
「急がば回れ」で設計・施工分離で透明性の高い筋の通る枠組を期待したいです。


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