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25 4月, 2016

永山祐子による代官山の「明るい窓(OSビル)」

永山祐子建築設計による代官山のテナントビル「明るい窓(OSビル)」を見学してきました。
東急東横線代官山駅から3分程の商業地と住宅地が切り替わるエリア。

 敷地面積99m2、建築面積59m2、延床面積174m2。鉄骨造、地下1階、地上2階建て。


  “明るい窓” 。「窓は、建築と街との関係を作る大切な要素の1つであるが、実際に日中の街を歩きながら窓を見ると、外に比べて中が暗くガラスのきつい反射もあり暗く閉ざされているように見える。もっと外から見た時に親密さを感じるような窓の在り方はないだろうか。」というのがテーマだ。


 代官山の駅から歩いてくると、背後の空や、住宅が透けて見えるような不思議な建物が現れる。


 永山さんは、学生時代に訪れたロンドンでこんな体験をしたという。
「ある通りを歩いていると窓が妙に明るく、建物の窓から通りに光が差し込んでいたので、窓から中を覗くとそこは空き地でした。見ると建物自体は解体されて、道に面した両側2枚の壁が鉄骨を通して自立していました。沿道の風景を残すための苦肉の策ですが、街並みを大切にしていることがわかりました。逆転して外壁が道のインテリアであるとも言えます。この体験から今回、通りに対して”明るい窓”を考えてみました。」

 潔く窓と同サイズのエントランス。中にはかなり主張する階段が覗く。地階に下りる階段はコンクリートの塊をザクッとえぐったような造形で対比が効いている。
 螺旋階段かなと思い見上げると回り階段だった。階段室の周囲はガラスで覆われ、トップライトからも光が降り注ぐガラスの塔のようだ。


製作はかなり困難だった様子が伺える。


 地階は約1,400mm掘り下げ、建物の高さ制限内で3層、かつ各フロアの天井高を取った。


 1階。一見外観からはRC造に見えるが、中に入ると軽やかさから鉄骨造なのがよく分かる。
通り側(左)の構造で多くの力を負担させ、反対の住宅地側は殆ど無柱に見えるようなカーテンウォールで、通りからは四角い窓越しに明るい室内が見えるようになっているのだ。


 2階。右に見える三角のスペースは外部のバルコニー。


階段室の見下ろし。スケルトンで引き渡すテナントビルなので、見せ場としてこだわった。


隣接する住宅は北面が見えているので、開口はさほど多くなく互いの視線はあまり気にならなさそうだ。

 フロアを支えるのは無垢の鉄角柱。

 階段室の反対側に吹き抜け状の坪庭があり今後木が植えられる予定。
この写真、よく見ると鏡が張ってあるがお分かりだろうか。

 通りから見るとこのように。街や室内、空を写し出す永山さんらしいちょっとしたトリックだ。
 “明るい窓” と共に街並みを少し変えることができる工夫。

【OSビル】
設計 : 永山祐子建築設計 
構造設計 : 小西泰孝建築構造設計 
施工 : 日南鉄構

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19 4月, 2016

「アトレ恵比寿西館」内覧会レポート

4月15日にオープンの商業施設「アトレ恵比寿西館」内覧会に行ってきました。
事業主はアトリウム。施設運営はアトレ。設計・監理はジェイアール東日本建築設計事務所、外装設計をプランテック総合計画事務所。屋上庭園を西畠清順が担当した。


西口広場に面した場所。地上8階地下1階、延床面積は9,700m2、25店舗が入る。左に見えるアトレ本館の約40%の規模だ。

「恵比寿駅前は約100mの幅があるが、そのエリアの認知性を高め、恵比寿の新しい顔となることを目標としています。」とアトリウムの亀田竜生氏。

コンセプトは「La Patio(中庭) “わたし”と“街”とをつなぐ場所」。ターゲットは恵比寿居住者で、あらためて "恵比寿に住んでいて良かった" と感じてもらえるよう、日常的に立ち寄れるような場所として構成しており、実際スーパーのテナントが2つ入っている。


ファサード。
既存本館の色味を抽出し関連性を持たせ、本館、駅前、街路樹との連続性も意識した。
テナントのサイン等を前面に出すのではなく、フレーム状のデザインの中に見えるテナントを飲食店中心に配し、店内で愉しむシーンや賑わいを外からも感じてもらう。建物としてのブランド価値を引き上げるように、各テナントと協力しているという。


「周辺の動線を集め、上へと吸引していくイメージです。3階のサイネージ、ファサード面4階のバルコニーの植栽、屋上庭園、さらに夜は屋上庭園のルーバーやファサードがライトアップされ、視線が上へいくようにしました。」とプランテック総合計画事務所の吉田和弘氏。


西館のオープンに際して西口連絡通路が新設された。
「JR恵比寿駅と西口を連絡通路でつなぎ、東口から西口への回遊性を高めると共に、街の活気、アトレの活気を緩やかに取り込む。アトレ同士の動線に留まらず、乗り場が駅前広場に面したエレベーターと接続させることで、駅へのバリアフリー動線として公共性にも寄与している。」とジェイアール東日本建築設計事務所の棟居克之氏。


本館の3階と、西館の4階を接続する連絡通路。



屋上ガーデンテラス 〈アトレ空中花園〉
プラントハンター西畠清順(そら植物園)が手掛けた。推定樹齢500年のオリーブのほか、老木、西洋と東洋、熱帯や砂漠の植物、高山植物まで、世界中から集めてきた様々な植物が共存する。


西畠清順さん。「テーマは "日常×非日常" です。都市の中で緑と風を感じてもらえる場所として訪れて欲しいと思います。年月を経て緑化が広がっていけば、さらに心地よい非日常のジャングルになります。」
背後の木が推定樹齢500年のオリーブ。スペインのオリーブ農園にあったもので、農家にとって生産性の悪くなった木として切られる運命にあったが、こうして必要とされる場所でまだ生きながらえることができた。3年後くらいにはまた実をつけるそうだ。






花園内に寝そべっている 〈ゑびす天さま〉 はどこにあるか探してみてください。


空中花園に面したシーフードレストラン 〈シロノニワ〉

その他いくつかのテナントを紹介。

〈鼎泰豊〉 ディン タイ フォン


〈無印良品〉 本を置いた3店舗目


〈バル マルシェ コダマ〉


店内からの眺望


〈Le Bar a Vin 52 AZABU TOKYO〉


〈成城石井〉 本館+駅との連絡通路脇にあり利便性が高く、朝8時から開店しパンやコーヒーを買うことが出来る。


〈ザ・ガーデン自由が丘〉 恵比寿に住む人にとって要望が多いのがスパーマーケットだ。


〈猿田彦珈琲〉 こちらも朝8時開店で、出勤前にコーヒーを一杯買い求めることが出来る。


〈SHAKE SHACK〉(シェイク シャック)の国内2店舗目

【アトレ恵比寿 西館】
詳細 : www.atre.co.jp/cam/1603/

構造 : 鉄骨造(一部鉄筋コンクリート造)階数 : 地上9階/地下1階
敷地面積:約1,450m2
延床面積積 : 約9,700m2
店舗面積:約4,950m2
設計・監理:ジェイアール東日本建築設計事務所
外装設計:プランテック総合計画事務所

【関連記事】
三浦慎×アトリウムによる赤坂の「Hotel Resveglio(リズベリオ)」
木下昌大による集合住宅「AKASAKA BRICK RESIDENCE」


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16 4月, 2016

「三分一博志 展」レポート/ギャラリー・間

4月15日よりTOTOギャラリー・間で開催の「三分一博志 展 ― 風、水、太陽」のプレス内覧会に行ってきました。
[Hiroshi Sambuichi ―― Moving Materials]

 何年も前から開催の依頼をしていたが、1年ほど前、ようやくタイミング合い開催の運びとなった。
「建築に対する巨視的な視点、そこから生み出される建築はモダニズムに対する鋭いクリティークにも感じる。」とTOTOギャラリー・間 代表の遠藤信行さん。



 会場に掲示される三分一さんのメッセージより:
「本展覧会では設計のプロセスにおける『動く素材』をテーマにしています。なぜなら風や水、太陽といった『動く素材』は地球全体を考える軸となりうるからです。私の設計の過程はつねに『動く素材』への探求です。
(中略)長い年月、自然にさらされる建築の宿命において、『動く素材』をないがしろにし、地球を欺き続けることは難しいでしょう。一方で地球は『動く素材』に丁寧な建築に対しては、さらに美しい形へと仕上げてくれます。『六甲枝垂れ』で樹氷が白く美しく建築全体に着氷したとき、私は改めてそのことを実感しました。地球は私にとって師であり、永遠のパートナーなのです。」

 瀬戸内を中心に活動する三分一さんのマニフェストは、「建築は地球の一部であり、建築を考えるという事は、地球のディテールを考えること。」


 3階会場は吊り下げられた2枚のスクリーンに映し出される4つのコンセプチュアルな映像と、壁面に設置された複数のモニターには作品画像のスライドショー。


瀬戸内の美しい写真。
リサーチのために1、2年時間を掛ける、時には空から。

 〈宮島弥山展望台〉 広島県/2013 ©新建築社写真部
「宮島は子どもの頃から数え切れなほど訪れている。言うなればリサーチ期間は40年です。」山頂からの宮島や瀬戸内の美しい景色を見てもらう手段として展望台を設計したのであって、建築を見てもらうものではない。
ミシュランガイドの三つ星を獲得している景色だそうだ。

〈犬島精錬所美術館〉 岡山県/2008 ©三分一博志建築設計事務所
美しい景色ばかりと思っていた瀬戸内で初めて破壊され尽くした自然を見た島。江戸時代より石材が掘り出され、その役目が終わった後明治・大正期には銅の精錬所として創業したがわずか10年で閉鎖。経済活動によって切り刻み搾取されてきた島を、経済に価値を見ない新しい価値を与え再生しようと試みた。

 犬島精錬所美術館内の動画。リサーチと実験を重ねた煙突効果によって館内の通路に空気が動き、地下で冷やされた空気が自然の冷房によって館内の空調を果たす。外気温が36度あっても館内は27度まで下がる。


〈直島ホール〉 香川県/2015 ©三分一博志建築設計事務所
様々な使い方が出来るホール兼地元の集会所で。入母屋の開口を抜ける直島特有の風を利用し、負圧によってホール内の熱を排気できる。

 スクリーンでは風のリサーチの様子が映し出されている。


 〈風と水のコクピット〉屋根の実証実験のために現地に作った大型のモックアップ。
吹き流しが入母屋に吸い込まれている様子。モックアップは瀬戸内国際芸術祭2013でパビリオンのひとつとして公開された。


 中庭展示は動く素材「風、水、太陽」をテーマとした水の循環の実験装置のインスタレーション。
多数の吹き流しは、この小さな中庭に均一な風が吹くことがないことが分かる。どのプロジェクトでも、吹き流しを使って季節や時間帯を設定し風向の定点観測を行い、観測データをコンピューター解析(CFD)に反映し、設計を進めていくという。

 5つの透明な箱はそれぞれガラスやアクリル、底面が白や黒、内部条件が異なることで水蒸気の出方に違いがあることが水滴によって確認出来る。
「我々は、この小さな地球という器の中で動く素材を共有していることを理解し続けなければならない。」
飛び石は犬島産のもの。

 4階展示室はリサーチに使われたモックアップ、模型、実験の様子を伝えるビジュアルなど。


 リサーチ、シミュレーション、エクスペリメント、モックアップとテーマに分けられた展示物。


 〈犬島精錬所美術館〉 気流模型。線香の煙を使って、煙突効果と太陽熱による館内の気流をリサーチした。3階のスクリーンでは実際の館内でシャボン玉が操られているように奥へと泳いでいく様子が見られる。

 〈風洞実験器 - 初期型〉 
前方の扇風機によって空気を吸い出し、後方のハニカムで整流された線香の煙が風洞内を抜けていく。

 主に1/100から1/50のモデルを確認するもの。「このシンプルな実験器での検討プロセスが新しい地球のディテールを決めていく。」



〈直島ホール〉風洞用のモデル。屋根形状により気流の違いを検討。


 シミュレーション動画。


 〈六甲枝垂れ〉 兵庫県/2010 ©三分一博志建築設計事務所
瀬戸内や神戸の街並みを望む六甲山の展望台。枝垂れをモチーフにした殻には厳寒期 “樹氷” が着氷すように設計された。

 素材や太さなどのリサーチを重ね、樹氷ができる条件を見つけ出した。


三分一博志さん。「瀬戸内は、人々の生活、文化、産業が “動く素材” によって育まれ、一体となっています。これ程豊かな地域は地球上にはないのではないでしょうか。美しい瀬戸内を伝え残していくために、私は建築を手段とする事しか出来ませんが、 “動く素材” に丁寧であればきっと自然に大切にしてもらえ、永くあり続けらると思っています。」

三分一博志展 風、水、太陽
会期:2016年4月15日(金)~6月11日(土)
会場:TOTOギャラリー・間
詳細:www.toto.co.jp/gallerma/ex160415/index.htm

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