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23 6月, 2016

「土木展」レポート/21_21 DESIGN SIGHT

 21_21 DESIGN SIGHTにて6月24日より始まる「土木展」の内覧会に行って来ました。

快適な生活を支えるため、街全体をデザインする基礎となる土木。道路や鉄道などの交通網、携帯電話やインターネットなどの通信技術、上下水道、災害に対する備えなど、人々の日常生活に必要不可欠な存在である。「土」と「木」で表す土木は、生活環境そのものであり、英語では "Civil Engineering" と表現されるように「市民のための技術」と言える。
本展は、私たちの毎日の暮らしであまり意識する機会がないが、密接に繋がっている土木にデザインの切り口から焦点を当て、あらためて身近に感じてもらおうというもの。

今回展覧会ディレクターを務めたワークヴィジョンズ西村浩さん
全国の駅舎や橋梁の設計、景観やまちづくりなどを手がけ、土木と建築の分野に精通しており、内藤廣さんからの推薦でこの大役が決まったという。
「土木についてのカタログのような展示ではなく、今までみたことのない切り口で、老若男女が楽しんでもらえる内容にしました。2020年東京オリンピックを控えた今、より良い未来を考えるきっかけとなれば嬉しいです」


ロビーは "都市の風景" を見てもらうエリアに。
〈渋谷駅解体、新宿駅解体、東京駅解体〉 田中智之
300万~400万人をさばく駅はどういうメカニズムになっているのかを可視化したドローイング3点。このような資料は実はどこにも存在しないという。



〈土木オーケストラ〉 ドローイングアンドマニュアル
日本の高度経済成長期を支えた土木の工事現場と、現在の渋谷駅周辺再開発事業の工事現場、新旧の映像をシャワーのように。迫力のある音は実際に渋谷で録音したもの。

〈土木の道具〉 ワークヴィジョンズ(西村 浩、林 隆育)
全国から集めた工事現場で使う道具や素材など。


"土木の行為" 「ほる」「ためる」「つむ」「ささえる」といったキーワードから土木を伝えるエリア。
土木の専門家ではないデザイナーやアーティストの作品により、土木をより身近に感じることができる。

見るだけでなく体験型の作品も多い。


〈まもる:キミのためにボクがいる。〉 WOW
消波ブロックや河川敷のコンクリートブロック、土留めの杭などが、私たちの生活と自然環境を災害から守っていることを伝える映像作品。
「荒々しく少し怖いという土木の既存イメージに対し、もっと親しみを持って欲しいという観点からコメディータッチな演出にしました。登場する消波ブロックの実寸サイズを体感していただけます。出てくるキャラクターは『どぼくん』です。」

30年間、建設現場を撮り続けてきた土木写真家 西山芳一によるダイナミックな写真。

〈つむ:ライト・アーチ・ボリューム〉 403architecture [dajiba]
空気で膨らませた台形型ビニールのピース(ペアになったピース7セット)を積み上げることで橋をつくる体験型作品。軽さを利用して1人でも軽々とアーチをつくり、その構造を学ぶことができる。

〈人孔(ひとあな)〉 設計領域
土木の質感を体感できるマンホールやアスファルトの作品。地面の表現にアスファルトまで敷き詰められており、マンホールから顔を出してみるという体験ができる。



〈ニュー土木〉 横山裕一
土木をテーマにした漫画。

〈土木で遊ぶ:ダイダラの砂箱〉 桐山孝司(東京藝術大学大学院映像研究科教授)、桒原寿行(東京藝術大学COI特任助手)
来場者が砂場遊びを通して土木の設計者となれる映像インスタレーション。

来場砂場を掘ると標高が低くなり、盛り上げると標高が高くなることを色でリアルタイムに表現してくれる。上空に手をかざすと手が雨雲になり、窪みに水が溜まる。


もう一つの砂場では高さに合わせ等高線が現れる。本作品は、今の土木を象徴している作品として会場の中心に置かれている。

〈現場で働く人たち〉 感電社+菊池茂夫
「現場はステージと同じライブです。」とう観点からパンクバンドのライブを撮る写真家が撮影した。

〈つく:山〉 日本左官会議(挾土秀平、小林隆男、小沼 充、川口正樹)
左官職人が手で突いた痕跡の残る版築工法で造った土と石のピラミッド。中に入ったり触ったりしてその技を感じる。

〈ささえる:ストラクチャー〉渡邉竜一+ローラン・ネイ
1mmのステンレス板だけでは強度もなくたわんでしまうが、折り曲げたり加工することによって橋として成立する。

実際にヨーロッパで計画中の全長65mの橋のストラクチャーとのこと。

〈つなぐ:渋谷駅(2013)構内模型〉田村圭介+昭和女子大学環境デザイン学科 田村研究室
渋谷駅は地下5階、地上3階の複雑な構成。 模型を通して、土木が駅構内をつないでいることを知ることができる。本作品を観賞したあとに、ロビーに戻って田中智之さんの渋谷駅ドローイングを見てみると面白い。

埼京線は遠く、東横線・副都心線は深く、銀座線がどれだけ上にあるかなどがよく分かる。

〈ダムとカレーと私〉 出演:宮島 咲/映像:ドローイングアンドマニュアル/制作協力:柿木原政広
日本各地のダムカレーの食品サンプルなど

〈はかる:Perfume Music Player Installation〉ライゾマティクスリサーチ
スマートフォンアプリの位置情報を用い、東京の交通網やユーザーの行動を観察することができる作品


"土木と哲学" エリア
土木の書籍や図面、東日本大震災の復興現場の映像などで、土木の役割について考察する。展示の最後に身近な世界に戻ってくるという構成になっている。
〈BLUE WALL 永代橋設計圖(東京大学大学院工学系社会基盤学専攻所蔵)〉EAU
関東大震災後の復興で掛け替えられた永代橋の青図。


〈GS三陸視察2015 映像記録作品『GROUNDSCAPE』〉
GSデザイン会議+岩本健太

西村浩さん(右)と、会場構成を担当した菅原大輔さん(左)。
「デジタルな最新の研究と、アナログな手仕事の両方の世界から土木を感じてもらえる作品が集まっています。展示台はよく見ると、盛り土のフォルムや地層を木目で表現したデザインになっています。」


柿木原政広による「土木展」の黄色いストライプのビジュアルは、Tシャツ、タオル、シールなどグッズとしてミュージアムショップにて購入できる。

ここでは紹介していない作品もまだまだありますので是非会場で。


展覧会チーム
展覧会ディレクター:西村 浩
企画協力:内藤 廣
企画チーム:崎谷浩一郎、新堀大祐、中村勇吾、八馬 智、羽藤英二、本田利器
テキスト:青野尚子
会場構成協力:菅原大輔
照明デザイン:海藤春樹
展覧会グラフィック:柿木原政広
アドバイザー:中村英夫


参加作家・参加団体

EAU、株式会社 感電社+菊池茂夫、柿木原政広、桐山孝司、桒原寿行、康 夏奈(吉田夏奈)、GSデザイン会議+岩本健太、設計領域、田中智之、田村圭介+昭和女子大学環境デザイン学科 田村研究室、ドローイングアンドマニュアル、西山芳一、公益社団法人 日本左官会議、八馬 智、ヤックル株式会社、ヤマガミユキヒロ、横山裕一、ライゾマティクスリサーチ、ワークヴィジョンズ、WOW、渡邉竜一+ローラン・ネイ、403architecture [dajiba]

【土木展 - Civil Engineering
会期:2016年6月24日〜9月25日
場所:21_21 DESIGN SIGHT
詳細:www.2121designsight.jp/program/civil_engineering/

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22 6月, 2016

西田司/オンデザインによる仕事場兼住宅「ON / OFF balance」

西田司+棗田久美子+佐治由美/オンデザインパートナーズによる目黒区の仕事場兼住宅「ON / OFF balance」の内覧会に行ってきました。
東急東横線・学芸大学駅から数分の場所。

敷地面積60m2、建築面積35m2、延床面積81m2。木造3階建て。
既存敷地が小さく三つに分筆され、北側斜線なりに大きく片流れのボリューム、という都市型の典型的な住宅に見えるが、中は想像とは全く異なっていた。

外装はガルバリウムの波板、いわゆるトタンで敢えて倉庫のような雰囲気にしたという。
ファサードに照明が突き出ているが、来客もある仕事場兼であることから看板が取り付けられるそうだ。
また今後、施主の自主施工によって、前面にパーゴラやテントの囲いを設え屋外でワイワイできるようにするとか。(向かいは線路の高架)

中へ入るとシルバーとクレーの空間。
家族4人の住居と、仕事場が2つ、それを24坪の中に計画した。

やけに明るいので見上げると3階までの吹き抜けと大きなトップライトが見えた。

室内も倉庫の雰囲気だ。壁はフレキシブルボードで汚れが味になっていくのを楽しむそうだ。

照明やスイッチパネル、ドアノブなど細かな設備の多くは施主が用意した。

1階の奥は、奥さまの仕事場であるメークアップスタジオで、手摺壁に鏡を張った。

2階へ。足元のキャットウォークには施主指定のアルミの縞板が張られている。住宅の床で見たのは初めてだ。

振り返るとクリエイティブディレクターであるご主人のスタジオ。

こちらも倉庫ライクで、窓はポリカーボネートの板がはめ込んである。
床は足場板。そして壁はこれから塗装し、部屋のサイズに合わせたデスク、開口上部に突き出し窓を設えるなど、DIY好きなご主人が自ら作り込んでいくという。

リビングと、右がトイレ。1階から床の縞板までは下足のため、リビングへの小上がりの下が下足入れになっている。
トイレの窓にはご主人がデザインしたグラフィックが手描きで仕上げられるため、その下書が貼ってある。



リビングからの見下ろし。来客も多いので1階はパブリック色が強いがDKでもある。2階にもスタジオ、しかしリビングもあるといったパブリックとプライベートの中間領域。
キャットウォークの端部に白い小さなキューブが見えるが、、、

拡大するとこのように。2階のみにあるトイレを使用中のとき行灯が点灯する仕掛けで、1階或いは3階からも見える位置なのでトイレの使用状況が分かるのだ。(カッティングシートの下書が貼ってある)

3階へ。

3階はプライベート性が高まるフロア。手前からクローゼット、洗面、浴室、寝室、背後に子供室がレイアウトされる。
トップライトはご覧の大きさで、曇天にもかかわらず純白の空間が眩しいほどだ。施主の希望で1、2階とは異なるシーンへの切り替えを演出している。



寝室は小屋裏の雰囲気。

子供室は上下に、L字型の2段ベッドのように配した。

子供室から。寝るだけの空間とした潔さ。
右手開口からバルコニーへ出られる。

右から西田司さん、佐治由美さん、棗田久美子さん。
「クリエイターのご夫妻ということもあり、イメージや細かいディテールの意志をはっきりとお持ちでした。ここは仕事場でもあるので来客もありますが、スペース的にどこかを隔離するようなことは難しいので、シチュエーションによって、パブリックとプライベートが融通し合い、各スペースがON / OFFを切り替えながらこの吹き抜けを介して様々なシーンを生み出していくような、新しいワーク・ライフ・バランスの提案です。」

ON / OFF balance
設計:西田司+棗田久美子+佐治由美/オンデザインパートナーズ
構造:ASD
施工:伸栄

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